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2020年白老町のポロト湖畔にオープンしたウポポイ(民族共生象徴空間)。
開業に至るまで、日本国内では長年にわたりアイヌ政策の議論や見直しが行われてきました。
旅行者や見学者が訪れ観光振興にはつながるものの、ウポポイで民族共生となるのか?
アイヌのほか国内外の先住民族政策に関する主要な宣言や報告、法整備などの歴史より振り返り、ちょっとマジメにカタく考察してみます。
※クリックすると該当する記事部分へ飛びます。
1.まず、海外での先住民族政策を知ろう
1-1.国際先住民年宣言|1993(平成5)年
1-2.先住民族の権利に関する国際連合宣言|2007(平成19)年
2.20世紀の日本でのアイヌ民族政策はどうだったのか
2-1.ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会|1996(平成8)年
2-2.アイヌ文化振興法|1997(平成9)年
3.21世紀の日本でのアイヌ民族政策はどう変わったのか
3-1.アイヌ施策のあり方に関する有識者懇談会報告|2009(平成21)年
3-2.「民族共生の象徴となる象徴空間」作業部会報告|2011(平成23)年
3-3.アイヌ施策推進法|2019(令和元)年
1.まず、海外での先住民族政策を知ろう
国際連合によると、世界各地の先住民族は少なくとも5,000以上存在。住民の数は3億7000万人以上、5大陸の70カ国以上の国々に住んでいるとされています。
世界中すべての先住民族の状況を把握するのは専門的な研究家でもない限り困難。
ここでは、世界的に大きな2つの事象について注目してみます。
1-1.国際先住民年宣言|1993(平成5)年
1993(平成5)年に、国連で国際先住民宣言が出されました。
世界各地に在住する先住民は、さまざまな人種的差別・抑圧の対象となっていたうえ、森林開発やダム建設などにより生存自体を脅かされています。
このような諸問題の解決を図るため地球規模の協力を促すよう、国連人権委員会先住民作業部会で「国際先住民年宣言」が発案。
先住民族の土地や資源、将来の世代のために望む発展のあり方などの諸問題について、先住民族自身の主張を国際社会へ広く訴えるため、大規模な啓発活動が行われるようになりました。
1-2.先住民族の権利に関する国際連合宣言|2007(平成19)年
海外での先住民族政策を把握するには、2007(平成19年)に出された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の把握も大事です。
この宣言では先住民族の権利を強調しています。なぜなら、先住民族自身の慣習と文化や伝統を守って強化し、先住民族自身の必要性と目標に合わせた発展を続けるため。
国際法にて承認されているすべての人権をすべての民族が差別されることなく平等に享有しているということを確認するとともに、先住民族の文化や伝統的慣習を尊重し、先住民族自身が目指す経済的・社会的開発の継続を促進することを宣言しています。
2.20世紀の日本でのアイヌ民族政策はどうだったのか
日本でのアイヌ民族政策が変わり始めたのは、20世紀後半になってから。
ここでは20世紀末の2つの事象について注目します。
2-1.ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会|1996(平成8)年
1996(平成8)年にまとめられた「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」では、新たなアイヌ施策の基本理念と具体的施策を提言しています。アイヌの人々の位置づけについて、自然人類学、歴史学、民族学、国際法等の学問的立場から様々な角度にて議論を重ねた結果です。
まずアイヌの人々が北海道をはじめ日本列島北部の先住民族であるという認識を確認。そのうえで、今までアイヌの人々が置かれてきた歴史的経緯を振り返り、1899(明治32)年に制定された「北海道旧○○保護法」をはじめ福祉向上政策が行われてきたものの、十分な成果を上げることができなかったと結論づけました。
※○○は現代では差別用語になるので、旧法律名ではあるものの記しません。
そこで、これからは新しい施策を進める必要があるので、基本理念を以下4点提示されました。
- アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進
- アイヌ語をも含むアイヌ文化の振興
- 伝統的生活空間の再生
- 理解の促進を柱に展開する
この時同時に、ウタリ(=同胞)ではなくアイヌという呼称に統一するほうが妥当だと答申されています。
近年は歴史的経緯の中で関係者の要望を踏まえてアイヌという呼称をあえてウタリ(=同胞)としていたそうですが、民族的な誇りの尊重という基本理念に基づく新たな施策を展開するにはアイヌという呼称がふさわしいと判断されました。
2-2.アイヌ文化振興法|1997(平成9)年
1997(平成9)年に、1899(明治32)年制定の「北海道旧○○保護法」が廃止されました。
代わりに制定されたのが、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(略称 アイヌ文化振興法)」です。
アイヌ文化振興法は、アイヌ文化の振興等を図るための施策を推進することで、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図るとともに、多様な文化の発展に寄与することを目的としています。
アイヌ文化の定義をアイヌ語とともに、アイヌにおいて継承されてきた音楽、舞踊、工芸その他の文化的所産及びこれらから発展した文化的所産としたうえで、国および地方公共団体の責務として下記のように明記されています。
- 国はアイヌ文化の振興等を図るための施策を推進するよう努める責務がある。
- 地方公共団体は、当該区域の社会的条件に応じ、アイヌ文化の振興等を図るための施策の実施に努める責務がある。
国および地方公共団体は、アイヌ文化の振興等を図るための施策を実施するにあたり、アイヌの人々の自発的意思と民族としての誇りを尊重するよう配慮することを求められています。
配慮をしたうえで、国土交通大臣および文部科学大臣は、アイヌ文化の振興等を図るための施策に関する基本方針を定めなくてはいけないと示されました。
また、政令で定める都道府県は、基本方針に則してアイヌ文化の振興等を図るための施策に関する基本計画を定めなくてはならないと示されました。
しかし、「アイヌ文化振興法」はアイヌ文化振興に特化しただけの内容だったので、民族としての権利を認めるまでには至りません。
実際の動きは次の21世紀に入ってからになります。
3.21世紀の日本でのアイヌ民族政策はどう変わったのか
日本でのアイヌ民族政策がしっかり動き出したきっかけは、2007年に国連で「先住民族の権利宣言」が採択されたこと。
21世紀に入ってからの日本のアイヌ民族政策について確認してみます。
3-1.アイヌ施策のあり方に関する有識者懇談会報告|2009(平成21)年
2008年には日本の国会でも「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、それを受けて政府は「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」を設置。
この有識者懇談会では、アイヌの人々の状況について今に至る経緯とその当時現状の考察をふまえたうえで、今後のアイヌ政策の在り方についての提言がなされました。
かつての日本、中世はアイヌの人々と和人との間で争いがあったものの講和をしました。しかし近代に入り北海道開拓が進むにつれ、アイヌの人々が和人の被支配的な立場に追い込まれ、アイヌ文化の継承に深刻な打撃を受けました。
アイヌの人々は日本列島北部、とくに北海道の先住民族という認識のもと、国にはアイヌ文化の復興に配慮すべき強い責任があるとされました。
この有識者懇親会では、アイヌ文化の復興に配慮するため、政策展開における理念を下記のように3点提示されました。
- アイヌのアイデンティティの尊重
- 多様な文化と民族の共生の尊重
- 国が主体となった政策の全国的実施
具体的な施策として、国民の理解促進を図るための教育とともに、広義の文化に係る政策として以下が示されました。
- 民族共生の象徴となる空間の整備
- アイヌ文化研究の推進
- アイヌ語をはじめとするアイヌ文化の振興
- アイヌ民族と文化に関わる土地と資源の利活用の促進
- アイヌの産業振興、生活向上関連施策
これらの施策を推進するため、国の体制の整備などを進めることが提言として掲げられました。なかでも、「民族共生の象徴となる象徴空間」が主要施策として位置づけられています。
3-2.「民族共生の象徴となる象徴空間」作業部会報告|2011(平成23)年
2009(平成21)年に主要施策として位置づけられた「民族共生の象徴となる象徴空間」の施策を進めるにあたり、具体的な検討を行うための作業部会が13回にわたり行われました。
作業部会の結果、2011(平成23)年に報告書としてまとめられました。
要旨をまとめます。
①「民族共生の象徴となる象徴空間」の意義
同報告では、下記のとおり3者に向けての意義が示されています。
○アイヌの人々にとっての意義
アイヌの人々が主体的に、かつ誇りをもって文化伝承活動を行い、伝統を基礎とした新たな文化を創造することができるような、心のよりどころとなる空間。
○国民一般にとっての意義
多様で豊かな文化を享有できる空間。
○国際的な意義
異なる民族の共生、文化の多様性の尊重等の国際的にも追求される理念を実現するための空間。
②「民族共生の象徴となる象徴空間」の役割と機能
「民族共生の象徴となる象徴空間」の意義をふまえ、今後のアイヌ施策推進において担うべき役割とともに、拠点としての位置づけが以下3点明示されました。
- 広義のアイヌ文化振興の拠点であること
- アイヌの歴史、文化等に関する国民理解の促進の拠点であること
- 将来の発展に向けた連携・協働の拠点であること
そのためには広大な自然空間の活用が必要で、文化施設を核として周辺の自然空間を含む区域にて環境整備をする必要があるとされました。
具体的な機能などについては下記のように定められています。
- 展示等機能
- 体験、交流機能
- 文化施設周辺の公園機能
- アイヌの精神文化を尊重する機能
③候補地選定と他地域連携・役割分担
候補地として挙げられたのは北海道内8地域。
検討をした結果、白老町がふさわしいとされました。
なぜなら、アイヌ文化の伝承活動等を担う人材等の資源や施設の存在とともに、自然的・地理的条件ほかさまざまな状況が適切と判断されたからです。
ただし、象徴空間としての他地域との連携や役割分担に留意する必要があるとも示されました。
たとえば、平取町における伝統工芸品の振興に向けた取り組みなど、地域固有の取り組みが象徴空間の機能などと連携・役割分担していくことが重要であり望ましいとされています。
特に、白老町内で行われているイオル(アイヌの伝統的生活空間)の再生事業については象徴空間の機能の一部とされ、平取町ほか白老町以外で行われているイオルの再生事業と役割分担を明確にするとともに、有機的な連携が必要であると示されました。
3-3.アイヌ施策推進法|2019(令和元)年
2019(令和元)年になると、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(略称 アイヌ施策推進法)」が施行。
アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための基本理念や方針をはじめ、様々な措置が定められています。主な項目と概要を下記へ紹介します。
①目的と理念
先住民族であるアイヌの人々の誇りが尊重される社会の実現により、民族共生社会を実現することを目標とします。
多様な民族の共生及び多様な文化の発展についての国民の理解を深めるとともに、アイヌの人々の自発的意思の尊重に配慮し、全国的な視点に立ち、差別や権利や利害の侵害がないよう、アイヌ施策を推進していくことが理念として掲げられています。
②国と地方公共団体の責務と特別措置
国および地方公共団体は、基本理念に則りアイヌ施策を策定し、実施する責務を有するものと定めます。
市町村は単独または共同で基本方針に基づき、アイヌ施策推進地域計画を作成し、内閣総理大臣の認定を申請することができるものとします。
この計画では、以下事業において国により当該認定を受けた項目に関しては、交付金の交付、国有林の利活用、鮭漁の規制緩和、商標法の特例、地方債の配慮などの特別な措置を受けることができると定められています。
- アイヌ文化の保存又は継承に資する事業
- アイヌの伝統等に関する理解の促進に資する事業
- 観光の振興その他の産業の振興に資する事業
- 地域内も敷くは地域間の交流又は国際交流の促進に資する事業
- その他内閣府令で定める事業
4.日本でのアイヌ民族政策は充分か?
過去の経緯を見てみると、アイヌ施策は進歩してきたかのように感じます。
さて、北海道開拓とともにアイヌの人々が和人の被支配的な立場に追い込まれ、アイヌ文化の継承に深刻な打撃を受けたことに対する明確な反省や謝罪はあったのでしょうか。
先住民族の権利保障はどこまで認められているのでしょうか。
日本の先住民族対策は進歩したとはいえ、アイヌ施策推進法でもまだまだ完全とは言い難く、今の状況に意を唱える方々もいらっしゃるようです。
2020(令和2)年にウポポイ(民族共生象徴空間)が開設されることでアイヌ文化が注目されることは間違いありません。観光振興にもつながります。
本質的な民族共生を目指すのであるなら、アイヌ施策推進法とウポポイのオープンが単なる観光振興ではなく、先住民族への理解と歴史認識の浸透につながり、謝罪や権利保障へとつながっていけばよいなと願います。